溜池の郷土
Exif情報
メーカー名 FUJIFILM
機種名 X-E1
ソフトウェア Capture One 7 Windows
レンズ
焦点距離 15mm
露出制御モード 絞り優先
シャッタースピード 1/288sec.
絞り値 F3.5
露出補正値 -0.3
測光モード 分割測光
ISO感度 200
ホワイトバランス
フラッシュ なし
サイズ 2048x1365 (2,229KB)
撮影日時 2018-12-16 23:34:04 +0900

1   kusanagi   2018/12/24 12:18

四国は高知とか徳島、愛媛の南予では南国のイメージがありますが、香川だと南国というよりも、
瀬戸内(瀬戸内海気候)という言葉が相応しいかなって思います。
ですから瀬戸内海に面した地域はほぼ同じ気候帯で、夏は蒸し暑いけど冬は温暖で年間を通じて
雨も雪もほとんど降りません。

同じ瀬戸内でも、中国側は大河川があり日本海から降り注ぐ中国山地の降雨や雪水が瀬戸内側
に流れていて、それを利用することができます。愛媛県もそうでして四国山地に降る水の利用が
できます。
ところが香川はそういうことが出来ないんですね。四国山地に降る雨はすべて讃岐山脈で隔てられて
いますから。(かたや吉野川の徳島では水害で死者が出るという始末です)
信じられないことですが江戸時代まで、香川では水飢饉による餓死者が村々で出ていたんです。
それがなんとか防げるようになったのは明治に入って西洋型の貯水ダムができてからです。もちろん
明治政府は中央集権の統一国家ですから、水飢饉の香川にしろ東北の冷害飢饉にしろ、餓死者は
出しません。

しかし香川ではそれでも水が足りないということで、それが何とか充足されるのは1974年の香川用水
の完成まで待たなければなりませんでした。(しかしその後も水瓶である吉野川、早明浦ダムの貯水
量不足でしばしば取水制限があるんです)
香川用水の仕組みというかシステムは非常に高度でかつ複雑です。何十というダムと用水で組み上
げられています。大規模な貯水池すらあります。しかし規模こそ小さいものの、江戸時代に出来た
溜池の多くもそれに劣らず高度なシステムになっているんです。これは調べれば調べるほど凄いなあ
と思いました。
こういうのは香川に限らず、日本全国で見られることでして、稲作と農業用水の確保というのは日本の
生命線であったわけでして、全国津々浦々よどみなく水が流れて利用できるようになっているんです。

溜池めぐりをしていて、不思議だな、面白いなあって思ったのは、なかなか目指す溜池に辿りつけない
というか、山なんかと違って平面な水ですから、高さがなくて池が発見できにくいところなんです。
車で堂々巡りをしてやっとたどり着く。そんな感じです。特に起伏のある地形では見通しが効かずで、
本当に探すのが大変なんです。
とにかくどんな狭いところにも重層的な複雑さというのもがあって、それは極めれば極めるほど複雑さ
を増すといいますか、上手く言えないんですが、自分が今まで知っているつもりの道とか地形なんか、
ほんの上っ面の点と線だけだったんだなって思い知らされることなんです。

上空から撮ったグーグル・マップなんかでは絶対に分からない現地での苦労と発見があるんですね。
まあ、私が鳥だったら池なんてすぐに分かるんですけど、人間だとそうはいかない。
しかし苦労して探したあげくの広大な溜池は、その水辺に佇むと何とも言えない嬉しさがあります。
満々と水を湛えた溜池はそれこそ黄金に等しいというかそれ以上です。

この重層的階層的な複雑さというのは、ほんとに物事を知れば知る程、実感できることなんですね。
なにも知らなければ世の中は単純って思うかも知れませんが、もちろんそれは知らぬが仏ということ
でしょう。
私はこの複雑さというものを少しは知ることが出来たということだけで、溜池散策は有意義だったなあ
と思っています。

ところでね。溜池の工事中の写真を撮っていた時だったんですが、しばらくすると現場監督さんが
トコトコと歩いてやってくるんですよ。それで、彼に聞かれること。なんで?どうして?写真を撮っている
のですかと。もちろん、私は溜池の研究をしていてそれで撮影しているのだと答えました。
それはそれで:撮影自体は問題なしだったんですが、監督さんがしきりに不思議がっていたのは、私が
一眼レフという大きなカメラで撮っていたのが不思議だったというわけです。
ソニーですからミラーレスカメラで一眼レフではないんですけど、とにかく写真を趣味とするような人が
持つカメラで、何でもない溜池工事の写真を撮っている事が随分と不思議だったようです。

近所の人が記念に写真を撮る場合もあります。そういう場合はスマホとかコンデジです。同業者が撮る
ことだってあるかも知れませんが(これは撮られたくないケースかも知れない)それでもコンデジです。
役所の人が撮る場合もあるかも知れないけどそれもコンデジ。
じゃあ、なぜ高級カメラ(一般の人にはそう見える)で撮っているの??という疑問符が、彼の脳裏に
渦巻いてしまったというわけです。(笑)

つまり高級カメラを使う写真趣味人間という人種はたくさんいるんだけど、工事現場写真なんて絶対に
撮らないわけです。写真趣味人間は綺麗な風景やイベントなんかでしか撮らないわけですから。
そういう一般常識に反したことを私がやっていたわけで、それで監督さんを戸惑わせてしまったという
わけなんですね。
しかし、私としては、これはしめたねって思いました。
どういうことかというと、自分はもう普通の写真趣味人間ではなくなったことを意味したからです。写真
の為の写真っていう写真趣味からは遠ざかってしまったこと。それが他人の眼からみても証明された
ということなんです。
写真道楽者でなくなったこと。これは私にとっては大変な収穫ですね。でもカメラ道楽は続いている
ので、あまり大した違いはないのかも知れませんが。(笑)

※写真は老築化した堤防の付け替えや耐震の為の工事をやっている現場です。堤防の断面が見て
取れます。ただの土なんですね。しかし粘土質の土を使っているので漏水は防げます。
貯水側の方は砂利とコンクリートブロックを張ります。外側の方は土のまま。
下のコンクリート水路は水抜きの為の設備です。排水だけでなく土砂吐ゲートを兼ねてます。他にも
中水域の排水設備とか、水が溢れるのを防ぐ自然放水路とか、注水川の設備とか色々とあります。
簡単と言えば簡単な土木工事なので地元の小さな工務店でやれます。

ある池では、これらの工事に合わせて、池底のドロさらえもやっていました。これは土砂堆積から
くる貯水量の低下を防ぐためと、及び池底の肥沃なドロを農地に客土するためだろうと考えられます。
昔からやっていることなのですが、けっこう大変で泥の曝気が必用で手間がかかります。
溜池は香川の農業には無くてはならない大切なインフラです。末永く後世に技術を伝え保全していく
ことが必須な設備です。

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